chapter3 入居者募集の苦労

 
 建物が完成に近付くに従って私も建設会社のスタッフも全く想像もしていなかった奇妙な不安を抱き始めました。
 それは入居者をいかにして集めるかでした。当初この計画が持ち上がった時点で当然行政(区役所の高齢福祉の窓口)に相談に行きました。その時の担当課長はこれからの高齢化社会を考えると公的施設だけで現在でも不足しているとの事だが現時点では高齢者共同住宅に関する法律が無いので金銭的に援助する事が出来ないが今後は民間のパワーと共同で対応しなくてはならないので是非実現してほしい旨を聞かされました。
 現に毎日のように公的施設に入居を希望される方が訪ねて来て対応に苦慮している話しも聞かされました。この時に金は補助して貰えなても入居者はいくらでも回してくれると安易に想像してしまいました。
 施設の完成を目前にパンフレットを作成し札幌市内の10ケ所の区役所の担当部署に入居者の紹介を依頼に行きました。しかしどの区役所も非常に冷ややかで「民間事業の紹介をなぜ行政がする必要が有るのか、もしも行政が紹介してそこで何か問題が起きたら紹介した行政の責任になる」と言った区役所もありました。パンフレットだけでも置かせて下さいとお願いしたら受取る訳にはゆかないが勝手に置いて市民が勝手に持って行くのは自由との訳の解らぬ返答が返って来ました。当初相談に行った時の担当課長は分区の為転勤してしまい情けないやら悔しいやら断腸の思いでした。
 高齢者共同住宅に情熱を燃やした建設会社も私以上に落ち込みました。
社員が札幌市内はもとより江別、北広島まで電柱にポスター張りをしました。社長自ら公園に出かけてお年寄りをつかまえてはパンフレットを配ってくれました。
 しかし全く反応がありませんでした。市議会議員を通じて区長にも会いました。老健施設からは1棟借上げの相談がありましたが、3ヶ月だけお世話して又老健施設に戻る人の為に苦労した訳ではないと断りました。最後の手段としてあらゆる人脈をたよりにマスコミに持ち込みました。北海タイムスが社会面に大きく写真入りで取り上げてくれました。しかし廃刊寸前だった為かほとんど反応がありませんでした。

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chapter3