chapter8 現況と将来について


 夕日ヶ丘山荘を建設して実に多くの方が訪ねてきました。一番多いのは事業として参入したいので見学させて欲しい、学生が卒業論文のテーマとして見学を希望するケースです。当初は訪ねてこられる方の全てに施設を案内し私どもの建設の理念を熱くお話していましたがある事に気がつきました。それはテレビ、新聞などで知り土地も金も無い人が多い事です。学生にしても教授に言われた程度で高齢者についての知識、勉強不足のまま訪ねて来る事でした。来訪者で迷惑するのが入居者です。居間でくつろいでいるところに突然現れるのですから、蜘蛛の子をちらすように個室に退散するのです。
 中には入居者をつかまえて、何故ここに入居したのか、ここの住み心地はどうか等の質問をする人までいます。まったく失礼千万です。
 最近の見学希望者には事前の電話の内容で極力お断りしています。
 突然訪ねてくる方の来訪には玄関前でのお話は伺いますが、見学はお断りしています。それが入居者に対する私どもの努めである事が解かりました。
 入居を希望される方の来訪はあとを絶ちませんが多くは今現在ではなく将来の老後の住まいとして見にくる方がほとんどです。
 面接して気が付いた事ですが、入居希望者の多くはちょっとした事がきっかけである日突然生活を変える決心をするようです。しかし突然の決心ほどいい加減なものはなく多くは身内に諭されてもとのサヤにおさまるケースがほとんどです。
 では、実際にどのような方が入居されたかを大別すると

熟年離婚(60代)して食事にギブアップした人
家庭内離婚状態で食事に困った既婚者
生涯独身できたが食事の心配に参った人
離婚して独身生活を謳歌してきたが年齢と共に話相手のいる家に住みたくなった人
一番多いのが同居の家族と折り合いが合わない人
嫁とのギクシャクはよくある話ですが、孫に嫌われた人もいます。娘婿が現役で働いているうちはうまくいっても定年になり毎日一緒に生活するうちに折り合わなくなり85才を過ぎてから入居された方もいます。
今は同居の家族とうまく行っているが将来迷惑を掛けたくないので今のうちに自立を決断した人
地方で一人住まいがながく子供達に札幌に呼び寄せられた人
痴呆の症状を身内が感じ取り一人住まいが心配で子供達が入居させた人
子供達の家を転々としたあげく入居された方
新興宗教から隔離させるために子供達が入居させた人
子供がなく姉妹の世話になっていた人
内縁関係の相手に見放された人
一人息子が外国に永住してしまった80代の人

本当の理由を言わずに入居する人

 

 定員10名のところ現在は8名が生活しています。夕日ケ丘山荘が出来て丸4年実に多くの人が出て行きました。昨年だけで5名が退去されました。本人あるいは身内から「実は〜」と切り出されるとドキンと思わずしてしまいます。
 この仕事を始めて一番つらいのは退去者を見送る時です。それを1年に5度も味わされるのですから挫けそうになります。その度に私たち夫婦は自己嫌悪に陥り力不足を感じて来ました。 しかし今まで退去した方を良く分析するとほとんどのケースが入居者側の都合なのです。

病気が再発して長期入院した方
本人は治ったら又山荘での生活を夢みているようですが身内が退去の手続きをしました。
共同生活になじめず身内が引取った方
   

今までギクシャクしていた身内と決別して山荘での共同生活を選択したのですが、共同生活には他人に迷惑をかけない事を基本とした幾つかの決め事制約があります。
 ささいな事を注意しただけで「出て行け」と言われたと身内に報告するのです。連格を受けた身内はバアちゃんがいじめられたと思い込み凄い勢いで乗り込んで来ます。よく事情を説明すると身内が本人を説得して帰りますが、このタイプは共同生活になじめずいずれ退去するケースが多いようです。

密かに新設のケアーハウスに応募し抽選され退去した方
    本人負担の他に月々30万もの補助金を得て運営されている公的施設と当山荘のような民間施設ではサービスの点で勝負になりません。
 この先行政が高齢者の需要に併せてケアーハウスを作り続ける事は不可能な事です。月々30万もの補助金に強い怒りが山荘経営を始める動機でもありましたが、皮肉にも入居者は新設のケアーハウスを選択し退去しました。何ともやるせない気持です。
痴呆が進み身内が引取った方
    地方で一人暮らしのお年よりの女性が少々ボケ出したので札幌にいる娘達が心配して入居させました。当初は一時的にボケの症状が好転したのですが、一年半たった頃以前より深刻に症状が出だしました。山荘での生活ではそれはど回りに迷惑を掛ける状況ではなかったのですが、毎日目が醒めている限り10分おきに来る電話で娘達の方が参って引取りました。
経済的理由で去った方
    ギクシャクしている家族関係から飛び出し山荘での生活を選択されて最初に困るのは身内の方です。今まで援助してもらっていたお金が住宅口一ンの一部だったり家計の一部だったのです。 山荘に払う月々10万ものお金を身内がそっくり頂けるのならもっともっと大切にする約束が成立し退去になるようです。退去される方の多くは本当の理由を言いませんが、このケースが一番多いようです。高齢者が預金と年金を自身の為にだけ使用出来る方がそれ程多く無い事が分かりました。
私どもに反発して出て行った方
    十人十色と言って十人集まれば必ず何事にも反発する者がいるのが世の常です。この事はオープン以前から容易に想像していました。しかし、高齢になってからの共同生活では反発する者のストレスが大きく私どもが介入せざるを得なくなります。 このような方の多くはまず自分の仲間を作ろうとします。誘われた方はいかにも賛同したように思わせて実は賛同していないのです、裏切りではないが要するにどうでも良いのです。 こうして一人だけ浮いた存在になってしまい、一旦賛同した筈の仲間の攻撃が始まるのです。この時点で退去が想像出来てしまいます。入居時に山荘に夢と希望が大きすぎる方の傾向がこのケースです。
その他のケース
    精神を患っていた方が入居時に本当の理由を隠して入居し、いずれ仲間に迷惑をかけたあげく退去されるケース。

 しかし、現在8名のうちの5名の方は山荘オープン時に入居された人達です。この極めて良識あるグループが今後も私どもの意向を理解して下さり本当の親子以上に楽しい生活が出来る人達だと思います。

 将来の事は今日の続きが明日であればと願うだけで一日でも長く夕日ケ丘山荘での生活を続けて欲しいと思います
 心配な事はカゼと転倒です。
 足掛け5年お世話して感じた高齢者の実像は以下のとうりです。

  • 自分自身の事しか考えていない。
  • 金銭感覚がしっかりしている。
  • 医者と病院が大好きである。(若い医師を好む)
  • 薬と膏薬が大好き。
  • 食欲旺盛である。(私の倍は食べている)
  • とにかく良く寝る。(朝食時に仲間が起こしに行く)
  • おしゃれだが洗濯がきらいである。
  • 風呂に入りたがらない、散歩が好きで掃除が嫌い。
  • 部屋が散らかっている。
  • テレビのワイドショウを欠かさず見る。
  • 新聞を良く読む。
  • ゴミの量が多い。
  • 幾つになっても男性であり女性である。
  • 銀行が嫌いで郵便局が好き。
  • 金払いがよい。
  • 全員に共通している事はケチである。

夕日ケ丘山荘でボケずに楽しく暮らすコツ

年を取ったら出しゃばらず人の悪口 泣きごとや憎まれ口と陰口を決して
愚痴らず回りをひたすら褒めること 知ってる事でも知らん振りして
聞かれりゃあ教えてあげなさい 何時も皆からバカな奴だと思われろ

天気の良い日は病院通い あそこで待つうち情報収集 狙いはハンサム若い医者
これが何よりのクスリです
疲れて天気の悪い日は 回復するまでじいっと我慢の二文字です

昔の事はみな忘れ自慢話しはしないこと 自分の時代はもう過ぎてどんなに頑張り
力んで見ても第一体が言う事きかぬ 貴方は偉い自分は駄目といつも回りに
言う事で全て円満にゆくのです

我が子と嫁と回りには いっもニコニコ現金払い 決して借りを作らぬこと
嫁は憎いが孫だけかわいい 金の切れ目が孫との切れ目
どちらを選ぶかここが思案の大事なところ 私だったら金選ぶ

回りには勝ったら駄目だ負けること いずれお世話になる身なら若い者には
花もたせ一歩さがって譲るのが全て 円満に行くのです
何時も感謝の気持を忘れず ありがとうありがとうと言いなさい

お金と物欲はいりません 沢山財産ためたとて死んであの世に
持っては行けぬ あの人はいい人だったと言われたかったら
生きてるうちにバラまいて 山はど徳を積みましょう

しかしそれは表向き ホントは死ぬまで財産しっかり離さず
貯め込んでまわりにケチだと言われても 金さえあれば大事にされる
皆さん何かと理由をつけて本当は財産 目当てでも大事に大事にしてくれる
大きな声では言えないがホントに本当のこと

我が子に孫に世間からいい年寄りとしたわれる そんな老後を楽しみなさい
ボケたら終りその為に金と頭を使うこと
何でも良いから趣味を持ち 人から教わるフリをして
回りと仲良く 楽しい老後を送りましょう

 

 以上のように夕日ケ丘山荘がオープンして足掛け5年一日として退屈な日が無いほど皆さんに振り回されています。
 でもこれが天から与えられた親孝行と思いこれからも頑張る覚悟です。

 

 

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